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消費生活研究第17巻1号 要旨
        
[特集]消費生活研究 最前線
消費者基本計画の成果をレビューする
  1. 消費者の権利の尊重と消費者の自立の支援(1)消費者の安全・安心の確保(施策番号4、12)釘宮悦子
  2. リコール情報の周知強化等 情報を必要とする消費者に確実に届くよう、
    迅速かつ的確な情報収集・発信の体制整備(施策番号7、8関係)野田友恵
  3. 情報を必要とする消費者に確実に届くよう、迅速かつ的確な情報の収集・発信の体制整備(施策番号8)磯村浩子
  4. 消費者トラブルへの対応を中心とした「消費者の信頼の確保」
    (施策番号39、39-2、39-2-2、39-3、153-2、153-3-2関係)戸部依子
  5. 食品表示法(施策番号69、73関係)森田満樹
  6. 消費者に対する啓発活動の推進と消費生活に関する教育の充実(施策番号87、87-2、90)松島一恵
  7. 学校における消費者教育の推進・支援(施策番号93)神山久美
  8. 消費者基本計画“地方消費者行政の充実・強化”についての成果 宮園由紀代
  9. 事業者や事業者団体による自主的な取組の促進(施策番号131)岡野純司
社会保障と税の一体改革についての一考察 ―家計における資産形成の重要性―
A Study on the Comprehensive Reform of Social Security and Tax
- Importance of Assets building in Household budget -

松島一恵(Kazue MATSUSHIMA)

 「社会保障・税一体改革大綱」が閣議決定(平成24年2月)されると、社会保障制度改革推進法、税制抜本改革法、年金関連4法が相次いで制定された。平成25年8月には、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」も成立し、「1970年代モデル」から「21世紀(2025年)日本モデル」への転換が図られていく。 社会保障は、機能強化・受益感覚の得られる「全世代型対応」を求められている。また、所得再分配機能を高めるため、消費税増税のみならず、所得税・相続税・贈与税の課税強化が行われている。金融所得一体課税により、資産形成への税制面での環境整備も整えられつつある。「well-being」という概念を生活の中で実現していくためにも、生活者(消費者)は必要とされるリテラシーを身につけ、実践していくことが大切になってくる。

キーワード:1970年代モデル、21世紀(2025年)日本モデル、社会保障、所得再分配機能、金融所得一体課税、well-being

消費者からみた公益通報者保護法の問題と考察
Problem and Consideration of the Whistleblower Protection Act as seen from the Consumer

土田あつ子(Atsuko TSUCHIDA)

 公益通報者保護の内部通報制度は企業内の不祥事を組織内で解決できるメリットは大きい。 企業はこの制度を導入した理由を「違法行為の未然防止・早期発見」「安心して通報できる環境整備」「社会的責任(CSR)を果たす」を挙げ、同時に「違法行為を外部(行政機関、報道機関等)に持ち出されないようにするため」の効果を期待している。
 労働者は勤務先の法令違反行為を知った時の通報意向は「する」と「しない」が半々である。労働者は公益に寄与することであっても勤務先からの不当な扱いを受ける「恐れ」があれば通報を躊躇している。それは労働者が内部・外部を問わず通報するにしても勤務先からの「不利益扱い」や報復におびえる実態が明らかになっている。 企業が通報後「人事異動」の名目の配置換えや異動に対し通報した労働者には対抗できる効果ある救済手段はないのが現実であろう。通報を実名か匿名かを訊くと3対7の割で匿名が圧倒的に多い、特命の希望理由は「実名の通報には不安」「不利益扱いを受ける恐れがある」が大きな理由である。また、自ら通報者にならないが、同僚が通報することに対して約8割が積極的に賛成している。
 2006年4月に施行された公益通報者保護法は附則に施行後5年を目途に検討を行う旨が記載されている。再検討に当たり、公益通報者保護法の名前の通りに通報者を守ることを第一に考えなければこの法律は有効に機能しないどころか法の名前が相応しいのかが問われよう。所管する消費者庁には難しい判断が求められよう。企業のガバナンスには業法を監督する官庁の関与を、人事異動の名を借りた異動や配置転換等を受けた時には労働法にも照らし合わせ救済措置も必要になろう。再検討にはそれらを所管する官庁との連携も視野に入れるべきであると考える。

キーワード:内部通報制度、公益と会社利益、内部規程と窓口、実名と匿名、不利益扱い

消費者紛争解決・紛争変容のための地方における消費者団体の社会的貢献
―熊本の2つの消費者団体を参考にして―

Social Contribution by Local Consumer Organization towards Conflict Transformation

宮園由紀代(Yukiyo MIYAZONO)

 消費者紛争は、同じような被害が繰り返され拡大していくものや、当事者が消費者被害とは気づかないまま拡大されていくもの、当事者間の力の格差故に生じるものなど、構造的な紛争も多い。構造的な紛争を解決するためには、今直面している紛争を解決するだけではなく、その紛争を契機として、社会を変革することも重要だと考える。 現在の日本では、個別の紛争解決支援は、消費生活相談機関等のADR機関や弁護士・司法書士等によって担われている。一方、構造的な消費者紛争の解決を目指し、社会を変革する役割は、これまで消費者運動として取り組まれてきたものだと思われる。
 消費者団体の活動の展開が期待される中で、消費者への情報発信や消費生活相談等の活動を中心とする従来型の消費者団体と、団体訴訟制度を担う消費者団体が、それぞれの強みを活かした社会的貢献を果たすことが求められる。
 本論文では、紛争解決学・紛争変容学における理論を活用し、地方消費者団体によって実践される紛争解決・紛争変容の発展について検討する。          

キーワード:消費者紛争、紛争解決、紛争変更、消費者団体、消費者運動

米国の商品販売形態と消費者意識動向
Product sales and consumer awareness trends of the United States

浅野智恵美(Chiemi ASANO)

 米国でも食の安全性や質、環境配慮に対する意識が、販売側、消費者双方ともに高まってきている。世界中から珍しい食品を直接調達し、チラシに商品の写真や価格を載せず、斬新でユニークなPB商品を販売しているスーパーがある。一方、ミシガン州はデポジット・リファンド制度を1976年から導入し、スーパーの店頭で缶、瓶、ペットボトルなどを回収している。日本より早い時期から資源削減、環境配慮に取り組んでいる。
 非遺伝子組み換え食品や熱帯雨林を保護するレインフォレスト・アライアンス認証商品の販売、買い物袋を持参するとレジで$0.05値引きするスーパー、家電量販店に設置されている資源回収BOX、寄附の仕組みを例用した不用品の有効利用などが行われている。
 消費者の環境に配慮したスマートな選択と買い物で、持続可能な社会を実現できる。どの店舗でどんな商品を購入するか最終的に決めるのは消費者である。環境配慮商品を選ぶという消費者の小さな一歩が、大きな変化を生みだす。
 独自路線をたどる米国は、環境取組が後ろ向きであると世界各国から見られている。しかしアースデーの発祥地でもある米国は、確実に環境取組の歩を進めている。

キーワード:自社ブランド商品開発、環境配慮取組、デポジット・リファンド制度、非遺伝子組み換え食品、レジ袋削減、不用品有効活用

中学生・高校生を対象とした消費者教育教材の現状と課題
The Current Situation and Issues of Teaching Materials on Consumer Education
for Junior and Senior High School Students

神山久美(Kumi KAMIYAMA)

 消費者教育の推進のためには、良質な教材が必要である。本研究は、消費者教育の教材に関する問題背景を整理しながら、現在発行されている中学生・高校生を対象とした消費者教育の教材の内容を分析・考察し、課題を見出すことを目的とした。
 消費者庁の「消費者教育ポータルサイト」を2015年4月に検索し、2008年度〜2014年度に制作されたもので、ライフステージ「中学生期」「高校生期」を対象とし、重点領域「消費者市民社会の構築」にあてはまる教材、合計84件を分析した。
 「トラブル対応能力」に関する教材が最も多く6割を超えており、地方公共団体が教材を作成していることが多かった。媒体は冊子教材が5割を超え、ダウンロード可能な教材は7割以上あるが、サイト掲載後にリンク切れとなっていたものが約1割あり、サイトの定期的更新が必要である。教材の内容は充実していきているが、「消費者市民社会の構築」に関する教材は、他領域と比較して数が少なく、ライフステージ設定が広すぎると考えられる教材が約3割あった。対象年齢を絞り、「消費者教育の体系イメージマップ」に合わせて体系的に学べる消費者教育の教材を増やしていくべきである。

キーワード:消費者教育教材、消費者教育ポータルサイト、中学生、高校生、消費者市民社会

「消費者科学」の視点で見る消費者市民教育
Reviewing Consumer Citizenship Education
with the Perspective of "Consumer Science"

磯村浩子(Hiroko ISOMURA)

 御船美智子は、編著書『消費者科学入門』において、現代社会において、消費者が持っていることを期待されている知識を「消費者科学」と仮定し、消費者のための知識体系を構築しようと試みた。その体系を再構成すると、@「消費者」の主体形成・発達、A「生活者」として「消費者」自身の位置づけ、B「消費者」の現状、社会的位置付け、C「消費者」のための社会のルール作り、支援の枠組み、D「消費者」の視点に立った関連分野の把握・理解、の5次元となる。 一方「消費者市民教育ガイドライン」を提示した、ビクトリア・トーレセンは、消費者市民教育の定義のもと、その7原則を、「価値観による行動の訓練」「批判的思考と科学的探求の実習」「最適条件の理解」「参加型民主主義の訓練」「伝統的考え方の再考」「地球規模の連帯への運動」「持続的発展への貢献」とした。これらの原則や例示された知識・内容を「消費者科学」の視点により分類すると、両者の目指す方向につき、教育の基本である価値の形成、体系化、価値観による行動など共通点が見いだせる。基本は@の主体形成・発達の次元における、価値観による行動、批判的思考と科学的探究、地球規模の連帯などである。 A消費者自身の位置づけもまた重要である。

キーワード:消費者科学、消費者市民教育、消費者の主体形成、価値観による行動、批判的思考、地球規模の連帯

今日の社会的弱者の消費者問題
―低所得者や障がい者における多重債務問題と消費者被害の解決に向けて―

Present Consumer Affairs on Socially Disadvantaged People
An Opinion to Resolve on Supporting for Over-Indebted Debtors and Consumer Injury

八代田道子(Michiko YAYOTA)

          
 今日、貧困層の増加が多重債務者を増大させているといっても過言ではない。その視点に立ち本論文では昨今の貧困状況を概観し、多重債務の原因とは何かを把握した上で破産の現状を知り、低所得の高齢者や障がい者がそれらの被害者となっていることを明らかにしていきたい。貧困層が消費者被害のターゲットとなっていることは、今日の消費者問題の実態を知る上で認識すべき点であるが、増加する消費者被害、多重債務者を減少させていくのに必要なことは何かを考えていくことが重要である。
 昨今消費者庁が消費者被害救済のための地域での見守り活動を推進すべく、都道府県や区市町村へ庁内間等での連携をよびかけており、加えて情報提供活動や消費者教育活動の推進も図っている。消費者行政と福祉関連機関との連携は一定の効果を収めているとはいえ、現在の社会状況から考えると、抜本的な社会制度改革が必要ではないかと思われる。そのためにいま、雇用と教育と社会保障の連携をした社会制度を根本的に再形成していくことが貧困を解消し、ひいては消費者問題の解決に繋がっていくと思われる。  

キーワード:障がい者、高齢者、多重債務と消費者被害、貧困、見守りによる被害救済、労働と教育と社会保障の連携


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